2017年に政府から打ち出された「働き方改革実行計画」をきっかけに、多くの企業で副業が解禁されました。しかし、副業が解禁されたといっても、実際に始めるとなると「上手くいくのか?」「本当に大丈夫なのか?」と、戸惑いを覚える方もいるのではないでしょうか。
エニィクルーでは、2019年8月6日、「副業解禁時代のパラレルキャリアの築き方」と題し、副業解禁時代の働き方に関するセミナーを開催。実際に企業に勤めながらパラレルワーカーとして働く3名に登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。
パネルディスカッションに先立ち、エニィクルー株式会社CEO 赤羽貢が登壇し、副業支援サービスの分類や調査データから見える副業の課題やメリットなど副業時代の流れと現状について解説しました。またこれから副業に取り組まれる方のためのサービスとして弊社が提供するAnycrewについても紹介をいたしました。
また、共催を頂いた日本経済新聞社の福澤様よりパラレルワーカーが働く場所を見つけるのに役立つサービスOFFICE PASSについて、ご紹介いただきました。OFFICE PASSはシェアオフィスやコワーキングスペースのオープン席・ブース席を月額14,980円で1日何時間でも利用できるというもので、都内でも100ヵ所以上で利用可能となっています。
パネルディスカッション「副業実践者による事例紹介」
まずは、自己紹介をお願いいたします。
人材系一部上場企業 小林直樹さま:人材系一部上場企業で働きながら、「Tech room ジュニア プログラミング教室」を経営しています。本業ではIT企画職として、WEBサービスやアプリの機能改善、案件のディレクションを担当。副業では、小中学生向けのプログラミング教室を経営し、現在、東京と神奈川で計8校舎を展開中です。
副業を始めた理由は、将来、会社を経営したいと考えているためです。企業に就職しつつも、副業として経営者として事業を回せる環境を持ち、どちらからも学びを得て最終的に理想とする経営者像を確立したいという思いから兼業する選択をしました。
ヤフー株式会社 岡直哉さま:デザイナーとして、ヤフー株式会社で会社全体のプロモーション施策やCM、デザインのディレクションとブランディングなどを担当しています。3年前から、フリーのデザイナーとしても活動し、主に企業やアーティストなどのWEBサイトやロゴ、名刺のデザインをしています。
フリーのデザイナーとして活動するきっかけになったのは、クラウドソーシングのコンペに参加したことです。会社では基本的に社内のスタッフのみで制作を進めるので外部との接点が少なく、自身のデザイナーとしてのレベルが分かりませんでした。このため、外部のデザイナーと比較して自分のデザインスキルがどのくらいなのかを知るために、腕試しとして「Lancers」のロゴコンペに参加。継続してロゴコンペに参加しているうちに、直接依頼が来るようになりました。
株式会社NTTドコモ 神谷渉三さま:自分はいつも「黄色い服」を着ているので「きいろ」と呼んでください。「きいろ」と呼んでもらえれば、すぐに振り返ります(笑)。本業では株式会社NTTドコモで「Conobie」という子育てメディアの事業譲渡や「ジモティー」への出資など、M&Aやアライアンスに関わっています。副業では「社会全体を学校にする」をミッションに次世代教育プラットフォーム「Nei-Kid」を提供しています。
副業をはじめた理由は40歳になった時、これからの生き方を悩んだことがきっかけです。その際「5Roles」という図を描き、「夫」「インベスター(投資家)」「父親」「サラリーマン」「アントレプレナー(創設者)」の5つを軸にライフプランを考えたのです。そして、できることは全て試し、「自分が何に向いているのか」を40代は模索しようと考え、「5ロールズを全て並行してやる」と決意して「Nei-Kid」を始めました。
副業を軌道にのせるまでのプロセス、苦労した点は?
神谷:集客です。長らくBtoBの仕事をしてきましたが、自分がやりたいことはBtoC。しかも、「Nei-Kid」は子ども向けの企業です。このため、本業ではやらないような特殊なアプローチをする必要がありました。幸いなことに、今は目処が立ちました。
岡:苦労した点は、契約書の作成です。自分はデザイナーで営業スキルがなく、当然ですが契約書を作成したこともありませんでした。フリーで始めた頃は契約書を交わさずに仕事をしていたのですが、ある時、アイコン1個分の制作費しかいただいていなかったにもかかわらず、クライアントが納得するまで100個くらい作ることになってしまったことがありました。業務内容に見合った制作費をいただくなど自分の身を守るためにも「契約書が必要だ」と学んだ出来事でした。
小林:プログラミング教室を始める時、まずは体験イベントを開催しました。共同創業者と一緒にイベントのチラシを作成し、夜中、ひたすらポスティングしたんです。幸い、ポスティングだけで多くの申し込みがあり、「本格的にやろう!」と決心できました。苦労したのは、「どこまで人に仕事を任せるか」の判断基準を明確にすることです。全てを自分でやろうとすると、副業である以上どうしても時間が足りません。「ここは人に任せる」「自分はここをやる」と割り切って業務を振り分けられるようになるまでが苦労しました。
副業をやってのメリット、デメリット。できれば赤裸々に
小林:メリットは、経営者視点で事業を回せる環境を得られていることです。経営者としての経験を積むことで、「いつでも独立できる」と自信が付きました。デメリットは休む暇がないことです。本業も副業も忙しくなると、「キツイな」と思うこともあります。
岡:私も副業をする時間が捻出できないのがデメリットです。自分は「土日しか副業しない」と決めているうえ、1歳半の子どもがいます。家事、育児、本業をして、さらに副業をするとなると時間がありません。仕事の依頼が来ても、断らなくてはならないのが心苦しいですね。1回の依頼は貴重なので。メリットは、デザインのスキルが身につくことです。会社ではできないジャンルのデザインをできるのも嬉しいです。
神谷:副業を始めて良かった点は、人脈が広がったことです。「Nei-Kid」を利用してくださる子どもや大人、幅広い世代のさまざまなジャンルで活躍する人たちと日常的に出会えるのは良いことだと考えています。デメリットは時間です。トラブルが同時に何件も起きると、対応に時間を取られるうえ、精神的にも追い詰められてしまうので。それでも、「自分でやりたいからやっているんだ」という精神に立ち返り、自分を鼓舞することで解消するようにしています。
副業を始める際、ミッションとニーズ、どちらを意識した?
小林:ミッションとニーズ、どちらも意識していました。ミッションについては「人の人生に影響を与える仕事がしたい」という思いが強く、そのために自分の時間を使おうと決めていました。ニーズについては、自身がIT企業に勤めていることもあり、「プログラミング」の需要があると考えていました。さらに、共同創業者が教育に熱い人。自分も教育に興味を抱いていたこともあり、「プログラミング教育をやってみよう」となりました。
神谷:ミッションですね。ある企業で「自分のことをクリエイティブか」と子どもたちにアンケートを取った際、日本だけ9割以上の子どもが「違う」と答えたんです。自分には息子がいるのですが、彼らの置かれている環境に「創造性がない」ことに耐えられませんでした。それで、子どもたちをさまざまなジャンルで活躍している大人と会わせて「いろんな生き方が世の中にはある」と知ってもらい、型にはまることなく「自分の価値観で人生を創って良いんだ」と感じてもらえるサービスを提供しようと考えました。
岡:自分の場合は、ニーズもミッションもありませんでした(笑)。デザインスキルを高めたいという気持ちが大きかったので。本当に軽い気持ちでクラウドソーシングから始めて、現在に至っています。
マネタイズについてどのように考えている?
神谷:副業を始めたばかりの頃は、あまり深く考えていませんでした。まず実践したのは「これをやるべきだ」という目標を先に立てて、それを継続して実現するためのモデルを描くことです。そのうえで「どこからどうお金をもらうか」を考え、試行錯誤を繰り返しながらマネタイズしていきました。
岡:自分は、最初はマネタイズのことは全く考えていませんでした。半年経った頃に直接依頼が来るようになり、「さすがに収益のことを考えないとまずい」と焦りを覚えてデザインの相場を調べました。今は自分なりに価格表を設定して、その表を元に仕事を請け負っています。
小林:「経営をしたい」との思いで副業を始めたので、初めからマネタイズは大事だと考えていました。できるだけ早いタイミングで損益分岐点を超えるように戦略を考え、1ヶ月目から黒字化できました。現在まで、赤字化したことはありません。
イベント参加者へのメッセージをお願いいたします。
神谷:何でもやってみて試してみて、そのうちに「自分にはこれが合っている」「こういう道がある」というのが分かってきます。自分も40代に入ってから知った世界がたくさんあったので、「何でも経験してみよう」という気持ちに従って行動しました。何をするにもそうですが、まずはやってみないと分かりません。
岡:起業するとなるとハードルが高いと感じる人もいるかもしれませんが、クラウドソーシングだと元手ゼロで始められます。気楽に副業を始めてみても良いのではないでしょうか。また、「好きなことで仕事をする」という思いが自分の中にあります。会社であろうが副業であろうがデザインをするのが好き。仕事が趣味の延長線上にあるんです。そうじゃないと、子どもと過ごす時間を削ってまで副業はできません。自分が好きなことをやるのが1番だと思います。
小林:「これはやりがいだ」と思えることをやってください。サラリーマンをやっていれば、生活はできます。では、なぜ土日を使って副業をするのかというと、自分の場合は「経営が好きだ」という気持ちがあるからです。そして、子どもたちもプログラミングに夢中になっている様子を見るのも好きです。「副業をやることで価値を生み出すことができている」と実感できることをするのが良いですね。